concept

残留思念という言葉がある。人が強く何かを思った時にその場所や物に残る思考や感情をそう呼ぶらしい。心霊スポットやパワースポットなどの場所は特に人間の強い欲やそこに訪れた人々の恐怖心など多数の思念が残留していると考えられている。
古来から畏れ崇められる神や妖怪なども、もともとはこのような人々の意識の集合体によって形作られたものだと考えられたりもする。何者かの祈りや強い思念が長い年月をかけ、信仰という形になり、古来から現代に至るまで私たちの生活に寄り添ってきた。
そうやって遠い昔から名もなき人々が信仰と祈りを繰り返し土地土地で暮らしてきた。私自身もまた先人たちの記憶の断層の上に積もっていく一部に過ぎない。
そんな中で、私の絵画の役割や立ち位置を考えた時、結局これもまた信仰と祈りという人間の営みに帰属していくものだと思っている。

私の場合、道端の小さな石仏や山の形など信仰の対象となるものの他に、例えば古くなって使われなくなったビル、錆びた遊具や現存しない店舗を案内し続ける看板など、時の経過の中で取り残された物たちの姿に注目し、その土地に浮かぶ記憶や気配の形を想像し、描いている。 描く風景はすべて自分が実際に訪れた場所である。

絵画として成立させることによって、現実とは異なった新しい時間軸をその風景に与え、新しい記憶を宿らせることを目的としている。 また、日々の視点や思考を新たな角度から見つめなおすきっかけを与えるものとして、絵画の可能性を探求している。

2019年 八太栄里